不思議な光景

2016年の12月に知り合いの老人が救急車で病院に搬送されました。老人の年齢は90歳で、日頃から身体のバランスが上手く取れないので、道で転んだりしていました。時には顔面を道路で強く打って、顔が血に染まることも有りました。12月に老人が病院に搬送されたのは、尿が上手く出なくて家のトイレで倒れたからです。5歳年下の婦人は彼が重くて床から起こすこともできません。それで近くに住む娘に連絡をして、救急車を呼んだらしいのです。

駆けつけた救急隊員に、夫人は「彼は上手く尿が出ないんです」と言いました。救急隊員は色んな病院に電話して受け入れを嘆願しますが、電話先の病院では「尿が出ないくらいではねぇ」と、良い返事はくれません。そんな時に受け入れをしてくれた病院が一つ有りました。老人は泌尿器科の病気なのですが、受け入れた病院に泌尿器科は無くて、結局内科が受け入れたそうです。

老人の膀胱は、尿が出ない事が慢性化していましたから、とても弱っていて尿の色も白っぽく、さらっとしていませんでした。
老人を受け入れた病院の内科医は、老人の膀胱に管を差し込んで尿を回収したり、感染症を抑える抗生剤の投与を行なっていました。しかし、やはり専門医では無いこの医者は何回も同じようなことを繰り返して、抗生剤の量も最大限に増えて行きました。そしてとうとう雑菌が腎臓にまで達し、腎盂炎(腎臓の重い感染症)になったようでした。

そして、この老人は1ヶ月後には痩せ細り5ヶ月後にはミイラのようになって、6ヶ月後にとうとう死んでしまいました。死亡診断書に書かれた死亡原因は「膀胱炎」と書かれていました。今の世界で膀胱炎で死んでしまう人ってどのくらいいるのでしょうか?

老人の婦人は、毎日夫を見舞いに病院に来ていました。婦人は片目が病気で盲目ですし、片耳も聴覚が有りません。耳の中には、奥の方に平衡バランスを行う石が有り、その石の中には水が少し入っています。その水の傾きで皆さん平衡感覚が取れるのですが、ある夜その石が夫人の寝ている間に、崖崩れのような音を立てて崩壊したらしいのです。それから婦人は真っ直ぐに歩く事が困難になりました。そう言う過酷な状態の中で、婦人は買い物カートを杖代わりにバスを乗り継ぎ病院に通いました。私は、ここに絶大な夫婦愛を感じました。

この老夫婦には遠く離れた所に息子もいました。息子はやつれた父親を見て、今、泌尿器科がある病院へ転院しないと、父親は死んでしまう。と母親に強く言いました。しかし、母親は「夫を他に移してどうするの?」と言って息子の言うことに耳を貸しません。息子はこの母親の言葉が理解できませんでした。「母親なら夫の病気が回復するのを願うはずだ。どうしてもっと良い病院に移さないのか?」この婦人と娘は、老人を他の良い病院に移転させることに最後まで無関心でした。そして、老人はこの病院に入院して6ヶ月後に膀胱炎で亡くなったのです。婦人と娘はどうして老人がもっと生きて行くことに執着しなかったのでしょうか。おそらく私が90歳になった頃に、彼女の胸の内が分かると思います。

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