祐仁が24歳の時、渋谷で出会った軽い感じのナオミ21歳と一夜を共にします。
それから祐仁はナオミの部屋に入り浸り、両親の元には暫く帰りませんでした。
1ヶ月後ナオミと祐仁は子供を授かりました。しかし、ナオミは夜遅くまで働いていたのと、若さに任せて無茶をやっていたせいか、流産してしまいます。
二人は軽い気持ちで付き合っていた事を反省して、このまま別れることを考え、渋谷のある喫茶店に入ります。そして、二人がもう別れる感じになって来た時に、祐仁が彼女に言いました。
「僕は心の底から真面目に君にぶつかって行ったんだ。でも君はそうでもなかったね・・・ じゃ、僕はもう帰るから」
祐仁がナオミにそう言うと、ナオミは祐仁の腕を捕まえて離そうとしません。祐仁はナオミの手を外そうとしますが、彼女の手は中々外れませんでした。そして祐仁は観念して、またテーブルに座ります。
二人はまた話を始めますが、祐仁が事あるごとに「自分は全身全霊で君にぶつかって恋愛したんだ、しかし、君はそうでも無かったんだね」と言って、彼はまたテーブルを立とうとします。
でも、ナオミはまた彼の腕を捕まえて離そうとしません。ナオミは彼の言葉を聞いて、何か人間として負けた様な気持ちになったのだと思います。
ナオミは、本当の両親を知りません。子供の時から色んな親戚のところを回って育ったせいか、他人に全身全霊でぶつかると言うことを知りません。いつも、一日中何も無いことを祈って、身を隠す様な生活をして来たのです。
でもナオミには素晴らしいところがありました。それは、中学二年生の時でした、全校生徒の中から生徒会長を選ぶ選挙が有った時のことです。ナオミはまだ中学二年生でしたが、学校の先生が「みんなナオミに投票しろよ」と言って回ったのでした。ナオミは持ち前の明るさと、学校の成績も良かったので先生に気に入られていたのです。
そして、ナオミは中学二年生で、三年生を抑えて生徒会長に選ばれました。そんな話を祐仁はナオミから聞かされて、自分には無いナオミの良さを発見しました。
ナオミには少し欠陥がありました。子供の時から母親にしつけられていないので、普通の子供が出来る事が、ナオミには出来ないのです。例えば、親戚の家にいる時は、掃除や後片付けをしなくて良いので、彼女は大人になっても掃除や後片付けが余り出来ません。また人の顔色を伺う様なところがあります。そして、自分の陰口に対しては激しく怒ります。
学校では有名人なので、学校で一番強い奴がナオミの陰口を叩いた奴を制裁したりしました。また彼女は気に入らない生徒を、生徒会の席で質問攻めにして立たせたりしたそうです。祐仁はナオミが両親を知らないことに同情もしましたが、彼女から離れられない何かを感じるようになりました。強さと弱さのギャップと親に甘えられなかった子供っぽさが、祐仁には凄く魅力的に思えました。そして、二人は永遠を誓い結婚したのでした。
ちょっと詩を書いてみました。
題名「海」
私の海があるの
いつの頃だったのか
肌寒くて暗くて小さな岸壁に
東の大海原の向こうから
遥々寄せては戻って行く波
私はその波の音を何時間も聴いていたような気がする
軽やかで 深くて 切なくて 懐かしい音
その波音に包まれながら、やがて茜色の雲が嬉しそうに踊り始めるの
そして その奥から陽光に包まれた陽が昇り始める
一瞬で波間が陽の色に染まり
私を包んでいた 緑や川や山の息吹が
聞こえて来るのよ
陽の光を受けた海は 揚々として美しい
そして多分今も あの波と波音は
私の海で遊んでいることでしょう
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